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研究者への道

香川大学教育学部 学校教育教員養成課程 准教授 松井 剛太

幼研での大学院生活を振り返って

 私は、大学・大学院の計10年間広島大学に所属しました。幼研には、学部の4年から、途中で1年間助手を挟み、博士課程の修了までお世話になりました。当時は4名の先生がいらっしゃいましたが、ゼミの七木田先生だけでなく、すべての先生及び先輩、後輩から貴重な学びをいただきました。幼研での生活から学んだこととして、次の3つが挙げられます。 第1に、「とことん現場主義」です。幼研では、附属幼稚園はもちろん、広島県内のさまざまな就学前施設に訪問し、たくさんの子どもたちや保育者の方々と関わりました。研究や保育者養成の仕事にしても、現場の視点から発想するという志向性が身に付いたのは、幼研での経験が大きかったです。 第2に、「国際的な視野」です。博士課程前期から後期に至るまで、米国、ニュージーランドなど、現地の就学前施設の訪問やフロントランナーの研究者との交流を持たせていただきました。また、毎年、NAEYC、DEC、PECERA、EECERAなどの学会に参加・発表をすることで、国際的な研究動向を知ることができました。日本国内にとどまらない視野を持って、研究に取り組む姿勢を学ぶことができました。 第3に、「研究へのチャレンジ精神」です。幼研では多くの先輩や後輩と出会うことができました。そこでは、自身の主となる研究テーマだけでなく、他のテーマに共同的に関わる経験も数多くありました。自身の研究テーマに狭く深くコミットすることも重要ですが、「大きな問い」は変えずに、他のテーマからアプローチすることで幅広く幼児教育を考えることもできます。他の研究者との共同研究にチャレンジすると、自身の研究も深まるという好循環を生むことに気づけたことは、研究者として重要な示唆をもらいました。

今の仕事のこと

松井剛太

 2008年に現在の職場に就職して、研究、保育者養成、社会貢献に取り組んでいます。研究では、大きな問いとして、一人一人の子どもの違いが尊重される就学前施設のあり方を持ち、「障害のある子どもや医療的ケアの必要な子どもなどを含めて、インクルーシブな保育のこと」、「一人一人の子どもの声をもとにした保育のアセスメント」、「一人一人の学びの個性を小学校に繋ぐこと」など、様々な方の力を借りながら複数のテーマに取り組んでいます。 保育者養成では、大学で障害児保育や子育て支援など、幼研で築いた基礎から繋がる授業を担当しています。またゼミでは卒業論文、修士論文の指導に取り組み、時には学会発表や論文執筆に繋げて、研究の世界に触れる機会も設けています。現場に行くときには、保育者として働く卒業生と出会うことも増え、少なからぬ刺激を受けています。社会貢献では、保育に関する国や自治体の委員会で委員を務めることもあります。ここでも、幼研で学んだことが大きく関わっていて、「幼研の先生だったら…、先輩・後輩だったら…、どういう発言をするだろうか」と憑依して考えることもあります。大学では多様な仕事がありますが、それぞれが研究に好影響を与えてくれるものだと思います。

福山市立大学教育学部児童教育学科 准教授 加藤 望

幼研での大学院生活を振り返って

 私は中坪史典先生の研究室で、博士の学位を取得しました。入学前から保育者養成課程の教員をしていましたので、社会人としてフルタイムで働きながら、授業を履修したり研究のご指導をいただいたりという6年間でした。いかに時間を確保するかが日々の課題で、その結果、編み出した方法が、生活のルーティン化に伴う時間の断捨離と、ながら時間と隙間時間の活用です。例えば、買う物をいつも同じに(食材や日用品だけでなく、服や靴、ランチのパンまで!)したり、ヘアカットも短めオーダーで美容師に一任したりすることで、どれにしよう?と迷う時間を一切削りました。また、ドライヤーをかけながら文献を読む、料理の煮込み時間に仕事のメールチェック、子どもの習い事で送迎の待ち時間には車中やカフェで論文を執筆し、時間を二倍にして使いました。 名古屋在住で、頻繁に広島へ通うことはできませんでしたが、ゼミ活動にもたくさん参加させてもらい、久しぶりの学生生活も謳歌しました。ここに在籍していなければ、見ることのできない景色、感じることのできない気持ち、改めて理解できる幼児教育の素晴らしさをたくさん経験させてもらいました。そして生涯の友との出会いがありました。また、何より最先端の幼児教育について、質の高い保育実践について、質的研究の具体的な方法について、理解を深めることができました。学位授与式の日には、修了することを惜しく思ったくらい、私にとって幼研での大学院生活は有意義な時間でした。もちろん良いことばかりではなく、査読に落ちて悔しくて泣いたことも、厳しい指導をいただいて落胆したこともありますが、それらも含めて、映画の主人公のような、一生忘れられない時間を過ごさせてもらいました。

今、研究者として

加藤 望

 今の私は、相変わらず、保育者養成課程の教員をしています。博士の学位を取得したことで、大学院の授業も担当することになりました。学会の理事や査読委員といったような仕事を依頼されることも増えました。その他、外から見る分には、以前と何も変わらない私です。  でも、中身は確実に変わりました。進学前は専門を聞かれると、遠慮がちに「幼児教育学です…」と答えていて、(おそらく「心理学です」とか「造形です」とかいう答えを期待されて)「その中でも専門は?」とさらに質問されると困ってしまい、「授業では保育原理を教えています」などと濁していました。それが今では、自信たっぷりに「幼児教育学です!」と答えられます。続く更なる専門についての質問にも、一時預かり事業をはじめとした、現在、研究している内容を詳しく話すと、興味を持って聞いていただけます。 「博士の学位は足の裏の米粒(取らないと気持ち悪いが取っても食えない)」と、誰かが言ったとか言わないとか、そんな言説がありますが、米粒を取った私の足の裏は、すっきりとして歩きやすい足です。大切なのは米粒の方(学位)ではなく、学位取得までをどのような足で歩んできて、これからをどんな風に歩んでいくのか、なのかもしれません。広島大学大学院で先生方のご指導の下に鍛えてもらったこの足は、なかなかの健脚ですから!山あり谷ありの研究者の道も、きっと着実に歩んでいけます。

琉球大学 教育学部 学校教育専攻 子ども教育開発専修
准教授 本岡 美保子

幼研での大学院生活を振り返って

 私が広島大学大学院に入学したのは、2016年の3月のことでした。それから、博士課程を修了するまでの7年間、幼年教育研究施設(幼研)に在籍させていただきました。大学院に入学した頃はまだ、子どもを育てながら保育の仕事もしていましたので、目がまわるような日々でした。早朝からの家事と仕事に加えて、勤務しながらの観察研究。それが終わると午後からは、研究のまとめと授業への出席。夕方からは、家事と授業課題に取り組むのが日課でした。今思うと、人生の中で一番頑張った時期だったかもしれません。
 右も左もわからずに入学し、課題や研究に追われるような毎日を過ごしていた私とって、同期や先輩の姿は、とても眩しく見えました。随分前に卒業した大学は教員養成系でしたが、日常でも当たり前のように使われる専門用語や外来語がわからず、あとからこっそり調べたこともあります。そんな私にも、幼研の皆さんは優しく接してくださいました。研究の相談に乗ってもらったことも、1度や2度ではありません。
 研究をするということの厳しさや難しさを知ったのも、この頃でした。当時私は、子どもの姿を研究として書くことへの葛藤を抱いていました。指導教員だった七木田敦先生にそのことを率直に話すと、先生は私に「腹を括ってください」とだけおっしゃいました。何もわからないまま大学院に飛び込んでしまった私にとって、このとき先生が教えてくださった研究することの厳しさや難しさは、今でも変わらず、私の胸を締め付けます。しかしそれ以上に、研究することの素晴らしさも、先生は教えてくださいました。
 特別研究という授業や、修士論文・博士論文の執筆に際しては、中坪史典先生にも数多くのご指導をいただきました。また、総合特研という授業では、杉村伸一郎先生や清水寿代先生にも、様々なご助言をいただきました。何より、生き生きと活躍される先生方の姿が、私には大きな目標になりました。頂いた言葉の数々を、私はこれからも、忘れることはないでしょう。

現在の職場に生かされていること

本岡美保子
イギリスで行われた
「国際オートエスノグラフィー学会」
(2026年7月)での発表の様子

 私は現在、琉球大学教育学部の小学校教員養成課程の中で、幼稚園免許の取得に関する科目を中心に、授業を担当しています。乳幼児期の教育から学校教育への接続は、日本の教育課題の一つでもあるため、小学校の教員をめざす学生に対して幼児教育の考え方や教育方法を伝えられることに、大きな喜びを感じています。幼児教育がこんなにも良いものだと胸を張って言えるのは、幼研の中で、国内外の様々な研究に触れさせていただいたからだと思います。
 また、実際に保育の場に赴き、わらべうたによる保育実践に関する研究や、研究者の主観性を活かした研究の方法論に関する研究などをさせてもらっています。今後はさらに、保育者のキャリア形成に関する研究や、沖縄の保育実践に関する研究も進め、研究成果を国内外に発信していきたいと思っています。研究に打ち込める環境の中で、研究の楽しさを感じられるのも、幼研での日々があったからだと思います。幼研で出会った方々とともに、共同研究や共同での執筆、学会運営、シンポジウムの開催などをすることもあります。こうした研究上のつながりを得られたことも、幼研で育てていただいて良かったと思うことの一つです。
 琉球大学が地域貢献に力を入れていることもあり、私も、保育施設や関連団体からお声がけをいただくことが多々あります。公開保育や研修会など、保育関係者の方々と協働的に作っていく機会そのものが、私自身の学びにもなっています。幼研で培ってきたことを活かし、少しでも沖縄の保育・幼児教育に貢献できるよう、これからも頑張りたいと思います。
 沖縄は、太陽が輝く美しい島です。学生には、沖縄の太陽のように、いつも心を輝かせていてねと言っています。それは研究に打ち込んで輝いていた、幼研で出会った方々の姿、そのものです。沖縄の太陽や幼研で出会った方々のように、私自身も毎日心を輝かせながら、教育活動や、研究活動、地域貢献に邁進したいと思います。

島根県立大学短期大学部保育学科 藤 翔平

幼研での大学院生活を振り返って

 私は、大学・大学院の計10年間広島大学に通い、幼年教育研究施設(幼研)には学部3年から約7年半もの間お世話になりました。指導教員の杉村 伸一郎先生には、研究をする能力だけではなく、研究者としての在り方や社会人として必要な心構えや態度も教えていただいたように思います。また、副指導教員であった清水 寿代先生、幼児教育の観点からご指導いただきました七木田 敦先生、中坪 史典先生からも貴重なご指摘をいただくことが多く、今の研究に活きている部分が多くあります。  博士課程後期を修了し幼研を離れてから、幼研という教育研究機関の貴重さをひしひしと感じます。心理学と教育学という異なる研究分野が共存していること、森の幼稚園である広島大学附属幼稚園との強い結びつき、中国人留学生や社会人院生のように国や年代を超えた交流ができることなど、幼研の素晴らしさを挙げるときりがありません。  そういった貴重な環境に、研究生活の序盤に巡り会えたことはとても幸運なことでした。幼児の心理や教育に興味があり、その興味関心を研ぎ澄まし究めたいと考えている方がおられましたら、幼研に是非いらしてください。おそらく、求めているものはそこにあると思います。

現在の職場について

藤

 私は現在、島根県立大学短期大学部保育学科で助教をしております。島根県立大学短期大学部保育学科は、島根県を中心として多様な学生を募り、2年間保育者としての専門性を高めた後、山陰各地に保育者を送り出すという島根県および山陰の保育を支える教育機関です。今は発達心理学、幼児理解と教育相談、幼児理解の方法、保育実習IA指導、卒業研究といった科目を担当しています。
 幼研に在籍している時には、先輩や先生方から専門学校や大学で授業する機会を頂くことが多くありましたので、授業経験に困ることはほとんどありませんでした。また、附属幼稚園を始めとした保育施設と関わることも多くありましたので、保育実習についても違和感なく担当できているように思います。そして、杉村先生を始めとした幼研の先生方の親身な指導は、学生の研究や進路を指導する際のモデルになっています。
 今はまだ研究者としても、教育者としても幼研の先生方の足元にも及びませんが、一日一日を大切にし、少しでも先生方のような素敵な先生になりたいと思います。

ソウル神学大学校保育科 教授 玄正煥

幼研での大学院生活を振り返って

 私は1989年幼研の博士課程の第1期生として入学し、1993年3月修了と同時に本国(韓国)に帰りました。4年間の幼研での生活は、人生のどの時期よりも私の価値観や研究者としての心構え、研究力などに最も影響を与えた時期だったと思います。 幼研での大学院生活を振り返ってみますと、何よりも先生たちの顔が浮かび上がります。私の指導教官であった祐宗先生の仕事への情熱と研究へのエネルギーは決して忘れることができません。懇親会の時に"ほうれん草をよく食べるように"と学生たちにおっしゃった森先生のお話は今も心に刻んでおり、うちの学生たちにもたまに心の戒めとして言っています。幼児保健学演習の授業では"あなたの話は何を言ってるのか全然わからない"と言われたことで、清水先生はちょっとコワイなという感じもありますが、お会いしたいですね。子どもの社会性について共同研究もさせていただき、広島へ帰る時の汽車の中でいろいろな話をしながらまるで友だちのように私に接してくださった山崎先生に感謝の気持を感じています。いつも心優しく接してくださった鳥光先生や井上先生にもありがたく思っています。同期である湯澤先生と七木田先生の卓越な研究力にはいつも感心し、私はいくら努力すればあ~なれるかなと思ったこともあります。今考えてみると、当時先生たちをはじめ、同期や後輩たちの支えなしでは日本での博士課程を修了することができなかったと思います。その恩返しをしなきゃと思うこのごろです。韓国へいらっしゃる時は是非ご連絡ください。有益な訪問になるようにできるだけの協力をします。

韓国での生活

ソウル神学大学校保育科 教授 玄正煥

 1993年3月に博士課程の修了と同時に韓国へ帰国し, 非常勤4年の過程を経て97年の9月に今の学校(ソウル神学大学校)に就きました。学校の歴史は2011年に開校100年になるくらい割合と長いですが、その規模は8つの学科と大学院を含めて4千人の学生を越えない小さいです。私の所属している保育科は280人の学生(一学年70人)がおり、ほとんどの学生は卒業後保育士を目指して勉強しています。私の担当科目は、心理学概論、幼児心理学、児童臨床心理学、カウンセリング心理学などを主に教えています。最近の学生たちは児童臨床に関心を持ち、卒業後は保育士以外に児童臨床心理士になりたがっている人も多くなっています。

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